それでは、実戦例から具体的に見ていこう。

東2局、北家の自分。前局リーチ棒つき7700点を放銃している。
打点的には悪くない手をもらって、たった今下家から中が出たところ。
さて、どうしよう?

これは鳴き無しでスルーした。
この形から鳴いたところで、何を切るかに選択があって難しい。
鳴いてもあがりに近づいているかと言ったらそれほどでもなく、
中をスルーしてどこかのターツが頭につぶれてから2鳴きをしても遅くはないという判断だ。
スルーした結果、ピンズに両面ができ、形が整ってきた。

あっという間にメンツが完成してテンパイ。
カン7sはドラ表示牌で少し苦しそうだが、どうしよう?

スルーして入ったテンパイ即リーチ。
ここはラス目だし、仕掛けが2者いるので当然のリーチだ。
自分の手は仕掛けるかどうかの選択を経た上でのメンゼン先制テンパイだ。
これは期待値的にもスルーの判断が正解であったことを示唆している。
他家に仕掛けがいる場合は、なおさらそれを咎めるリーチにいきやすい。

7sが後スジになり、安牌に窮した対面から討ち取る。
裏が1枚で8000。
この半荘の結果から言うと、俺がトップ、オリ打ちをした対面がラスまで転げ落ちた。
メンゼンのメリットと仕掛けのデメリットが如実に表れたこの局の結果が、半荘の行方を大きく左右したことは間違いない。
何気なく鳴いていって咎められた場合の代償というのは、想像以上に大きい。
この辺に鳴きの怖さが潜んでいる。

別の半荘。
東2局、西家、27700点持ちトップ目。
上家から東が出たが、どうしよう?

これもスルーした。
この形からポンしても、ターツ選択に迷いが残るし、
頭がない形から鳴いていっても両面ターツが積極的に仕掛けられない。
頭になりやすい複合形があるわけでもなく、
最終的に単騎待ちまで見えるのでは、速さという仕掛けのメリットを十分に享受できない。
この場合、愚形のいずれかが頭になっていたら間違いなくポンしている。
仕掛けの場合、雀頭があるかどうかというのは安定感だ。
頭がなければどこを仕掛けるにしても頭のできやすさや、最終単騎を想定しなければならない。
仕掛ければ仕掛けるほど、頭につぶれる牌種が減り、重なりにくくなる。
両面ターツを仕掛けるのにも神経を使うということは、
鳴きの最大の長所であるスピードを生かしきれない。
つまり、この手のように雀頭がなく、複合しない単純ターツばかりの手なら、
鳴かずに受け入れを広くし、どこかが頭につぶれるなりメンツが完成したりするのを待っても、
スピード的に鳴いた場合と遜色ない可能性がある。
スピードで遜色がないならとりあえずスルーして、
メンゼンの可能性も見ることで、打点上昇の期待もアップする。
これが「頭のない手は鳴かない」のロジックだ。

中盤の出口で、両面のテンパイとなった。
ノミ手、しかも待ちの6sはポンされているが、どうしよう?

スルーして入ったテンパイ即リーチ。
ここでは、ドラの北が見えているのも大きいが、
仕掛けが2人いるので、リーチで叩き返される心配が少ない。
こういう場合、上から目線で仕掛けを咎めにいっていい。

2巡後にツモって、まさかの裏裏。
これがメンゼンの最大のメリットであることは言うまでもないが、
仕掛けとの選択を経て得られた結果であること、これが大きい。
どうでもいい手を化かすのも一つの腕であり、
こういうあがりを拾えれば完全にメンゼン派のペースだ。
これはチップ麻雀にも有効な戦略であると言える。

別の半荘。
東4局、南家、34000点持ちトップ目。
ドラ暗刻のチャンス手をもらっている。
下家から東が出たが、さてどうしよう?

これは、鳴き無しでスルーした。
場況から3pはかなりいいが、1pは固めて持たれているかもと思っている。
東を鳴いたところでピンズが頭につぶれないので、
結局ドラを手放す可能性が高いと踏んでいる。
シャンテン数の変わらない仕掛けでこの手を3900にしてしまうのでは東ポンのメリットがない。
それなら終盤だろうがリーチを念頭にメンゼンでいってもいいと考えての鳴き無しだ。
スルーしたところ、キラキラ輝く赤5mゲット。
これはスルーの判断が正しかったご褒美ツモだ。
これで東を2鳴きする体勢が完全に整った。

対面から少し遅れて東が出てきて、これをありがたくポン。
構想通り、絶好の3p待ちができた。

テンパイの入っていた下家から召し取り、8000。
非常に感触のあるあがりだったが、
この局の結果を生んだのは、何といっても鳴き無しだ。
生牌の東にラグがかかっていたら、
やはり1枚抱えていた対面が確実に東を合わせるからだ。
そうなると、慌てて鳴いても同巡2鳴きでノーテンが丸わかりとなり、
微妙な形のまま、あがりまで結びついたかどうかはわからない。
このように、鳴き無しを上手く使うことは天鳳であがり率を高める有効な手段だ。
中盤だろうが終盤だろうが、鳴き無しのメリハリをつけることでぐっと手牌は読まれにくくなる。
例えば、上家のリーチ宣言牌に対応できなくなるなどのデメリットは確かにあるが、
それ以上のメリットがあると俺自身は考えている。

別の半荘。
東3局、西家、32500点持ち2着目。
赤とドラが組み込まれたチャンス手をもらっている。
下家から発が出たが、さてどうしよう?

これは鳴き無しでスルーした。
58sの亜両面形が雀頭候補としてはあるが、
ドラまたぎの急所で明確ではなく、仕掛けても不安定感が拭えない。
これは仕掛けずに、ツモでソーズの伸びを見たい。

ズバッと3sが埋まった。
スルーして、好牌引いたら攻め意識、だ。
ここでは一通の伸びと即リーチを見て、8sを切った。

ほどなくして2枚目の発が下家から出た。
さて、どうしよう?

これも鳴き無しでスルーした。
これは、14sのノベタンが現実的な雀頭候補としてあるので、
鳴いた方が実戦的だ。
鳴き無しにするほどではないので、実戦でも少し迷いながらだったが、
ソーズの一通の変化もあるし、発ポンは形を決めすぎるきらいがある。
そして何より3s引きで攻めを強く意識している。
鳴かなくても同じイーシャンテンだし、ツモの感触に従ってリーチ前提でも問題なかろうと考えた。

これが上手くはまって、最高のペン7pツモ。
文句なく、即リーチに踏み切った。

追っかけをくらって、なかなかの危険牌が続いたが、首尾よくツモ。
そうだろうそうだろう、という感触で2000・3900をあがりきった。
このように、2鳴きが当たり前のようなケースでも、メンゼンで十分な結果が出ることもそれなりにあり、
スルーがはまれば、流れのまま一気にあがりまで結びつくことが多い。
ひとつ鳴いてしまえば、スピードと引き換えに打点の低下と失敗時のリスクを背負う。
一方でスルーは、鳴かないことでスピード自体低下しないこともままあり、
メンゼンの大きなメリットを残したまま戦える。
おそらく現代麻雀は、フーロのメリットが過剰に見積もられている。
何をスルーするかを的確に見極めることができれば、
フーロ率が劇的に低下してもあがり率はほとんど低下しないはずだ。
麻雀必勝の鍵はこのへんを紐解くことで見えてくると、現在の俺は考えている。
長くなってしまったので、続きは次回に。