
満貫ツモあがって迎えた東2局。
海底で、安全牌がなくなってしまった。
さて、何を切る?
場況は見ての通りのトイツ場で、
リーチが入った瞬間、チートイツかなという感覚が強くあった。
上家の捨て牌からはそれほどチートイツ臭はしないものの、
これだけ自分の手牌がトイツよりだとどうしても順子はできにくくなるはずだ。
実戦感情としては、1mは切りたくないという思いがあった。
チートイツならこの上ない絶好の待ちだからだ。
流局までにギリギリ安牌で凌げる算段だったが、
2巡前の対面のチーにより海底が回ってきてしまう。
本当に嫌な感触で迎えた海底ということになる。

魅入られたように俺が選択したのは1mで、
これが見事にズドン。
海底ドラドラで12000。
俺が後悔しているのは、
自分の感覚を信じきれなかったということではなく、
最後、思考を放棄して理にすがった拝み打ちをしてしまったということである。
ギリギリまで考えれば2p、3m、あるいは4pという選択肢を絞り出せたかもしれないのに、
フワッと浮ついた打牌で放銃してしまった、その一点がどうにも悔しいのだ。
結局、この半荘はこの一打が響いてラスだった。
俺はトイツ場というのは間違いなく存在すると思っていて、
上級者であればあるほどその接し方に気を使うものだと考えている。
なぜなら、トイツ手は打ち手の読みの比重が結果に大きくかかわるものだからである。
上の牌図だけで見た場合、放銃確率が低いのは間違いなく単騎待ちしかない1m切りである。
デジタルのコンピューターに打たせた場合、100回中100回1mを切るのではないか?
しかし、読みの精度を上げることでこの1m放銃は回避が可能だと思われるからだ。
人間がスーパーコンピューターに勝てるとすればこのトイツ手の領域しかない。
トイツ手にはアナログな要素が多分に含まれている。
歴代のタイトルホルダーを見ても、
土田浩翔をはじめとして、鈴木達也、安藤満といったトイツ手の名手がいる。
彼らはトイツ手を駆使して、デジタルとは一線を画した打牌を続けながらも、
超一線級で活躍してきたトッププロである。
タイトルを獲るためには、
デジタル的領域を乗り越えた部分、
つまりトイツ手を含んだアナログ的思想に精通する必要があるというのが、
現在の俺自身の考えであり、
トッププロにも共通の見解を持つ人が多いのではないだろうか?

別の半荘の東1局。
騒がしい捨て牌の下家からリーチが入って、さあ何を切る?
自分の手牌からいっても明らかにトイツ場であり、
下家の宣言牌南からもかなりチートイツの臭いがする。
ドラ待ちはもちろん想定内だが、
1枚切れの南よりいい待ちは何かと考えた時に、
6sが光っているのが見えれば瞬時に9sがひらめく。
9sは切りたくないと思っていると一発目のツモが9s。
自分は8mを切っていて、あがりが見込みづらいこともあり、
ここは現物の6sを切った。

ギリギリ凌いできたが、ついに安牌がなくなった。
さて何を切る?
俺はこの局面は本当にやばいと思っていたけど、
先の半荘の反省があったから、
全力で切り出す牌を絞り出した。

メンツ手にもチートイツにも若干刺さりにくく、
2巡凌げる8s切りだ。
やはりというか見事にというか下家の待ちは9sだった。
下家の一発ツモが南かぶりで「あいてっ」と聞こえてきたからこの9sは絶対に切るわけにはいかないのだ(笑)
もちろん、この8sで打って満貫を献上するケースもあるだろう。
しかし、デジタルマシーンなら打つやもしれぬこの9sを、
先の反省も生かした人間力で止める、
これがまた麻雀の深淵を垣間見たようで大きな至福を覚えるのである。
この回避が効いて、この半荘は納得の3位だった。