今回はラス前(南3局)に題材を絞った。
ラス前に限った話ではないが、トップ目の親番でまず考えることは、
「仕掛けてあがることにどれだけ意味があるか」ということだ。
高い手なら決定打になりうるため、問題はないが、
仕掛けの安手で連荘することは、
見方を変えれば下位者に対していたずらに挽回のチャンスを与えているとも考えられ、
順位戦略として得とは言えないケースも多いからだ。
ましてや、局回しの重要なラス前ともなればなおさらだ。
仕掛けること自体、手狭にして守備力を低くする行為であるのに、
その目的であるあがりを得ても、相手が喜んでしまうというのでは、
リスクとリターンが見合わず、そもそも仕掛けない方がいいというのは少し考えればわかる。
あがることが勝つための必要条件なのに、
あがることが常に勝つために必要なわけではないというところは、
何とも不思議な命題を内包しているが、
結局のところ、順位戦略としてその仕掛けは最適ではないということである。
天鳳ではあがりを取りに行くより放銃を回避することの方が重要な場面が多く、
一見、普通に見える仕掛けが最適解ではないことも多いと私は認識している。
ともかく、トップ目の親番こそが、
仕掛けによる「あがりの意味」を超真剣に考えるべき場面であり、
迷ったら、メンゼン主眼にどっしりと構えるぐらいでちょうどいいだろう。
それでは、具体的に実戦例から見ていこう。
@安い

南3局2本場供託1本、37300点持ちトップ目の親番。
2着目は25000点の南家で、3着目・ラス目が18400・18300と拮抗している。
トイツ4組のところ、下家から白が出た。
さて、どうしよう?

鳴き無しでスルーした。
供託リーチ棒があるとは言っても、この局面で安手の連荘はあまり意味がない。
メンツが一つもないため、鳴いてもさほどスピード感のある手ではなく、
特に注意すべきなのは拮抗している3着目とラス目への放銃だ。
いずれかに満貫クラスを放銃してしまうと、オーラス見事に三つ巴となり、
トップを取るどころか、ラス転落が現実的に見えてきてしまう。
下との点差を考えたら、安手であがるより流局でも親が流れてくれた方が嬉しい。
3着目と4着目はこの点差のまま、オーラスはラス争いをしてもらった方が、自分にとっては都合がいいのだ。

ラス目の上家が中を大ミンカンして、ドラドラになった上、光速のチートイテンパイ。
スルーから数巡でまさかの勝負手に育った。
下家の2pを上家はポンしていないので、2p待ちに取る。
この2pは感触あり。

首尾よくツモって4000オール。
これはできすぎの結果ではあるが、
4トイツぐらいなら鳴かずともトイツ手が高速で仕上がることも多い。
ドラに寄せることも可能なチートイツは、攻守両面においてやはり魅力だ。
Aライバルが仕掛けている

南3局、38500点持ちトップ目で迎えた親番。
2着目は24000点の南家、ラス目は13900点の西家となっている。
上家から中が出たところ。
さて、どうしよう?

鳴き無しでスルーした。
ドラ1あって、愚形とはいえペン3sは場況的には悪くないのでポンする手もあるが、
ここでのポイントはライバル下家が先に仕掛けていることだ。
下家の仕掛けは9pのリャンメンチーだが、ピンズの染め手でもなく、
パッと見高そうには見えない。
2着キープ主眼でかわしを念頭に置いた仕掛けの可能性が高いなら、
相手にスピードを合わせる必要はない。
余裕のスルーでさらに形が整ってから仕掛けてもいいし、
あるいは南家にそのままあがってももらっても構わない。

ラス目対面の仕掛けも入り、上家から3pが出たところ。
この3pは場に4枚目の36pだが、さてこれを鳴く?

ラグありでスルーした。
ドラを仕掛けていない対面の仕掛けはそれほど脅威ではなく、
仕掛けてテンパイに取る手もあるが、
バックの2900にする必要性もさほどない。
メンゼンで融通の利いた構えのまま、
やはり仕掛け者にはあがってもらっても構わない。
我慢したところご褒美の赤5pツモ。
これでぐっと手がグレードアップした。
5800なら、一転してあがりを取りに行く価値は高まる。

ほどなくして出た中をポンしてテンパイ。
切られすぎた36p待ちを回避しているのも好感触だ。

間髪入れずにツモって、2000オールのダメ押し。
とにかくスルーを尽くして入れたテンパイというのは好結果に結びつきやすい。
文学的に言うと、対面の勝ち運まで食い取った、こんな感じか。
やはり2900と5800の差は大きく、
5800クラスの加点であれば十分に決定打になりうる。
トップ目の親番で仕掛ける基準は5800からを意識するのがいいだろう。
B遠い

南3局1本場、50200点持ちダントツトップ目の親番。
点棒状況は自分から順に、50200、28400、12800、8600となっている。
コーツ手風の手牌から自風の東が出たところ。
さて、どうしよう?

鳴き無しでスルーした。
鳴いてイーシャンテン、手牌的には遅いというわけではないが、
カン7mのノミ手であがることにはあまり意味がないし、
鳴いてからトイトイ、ホンイツを見込むのも少し遠い。
それならばツモの様子を見ながらメンゼンで手組みをし、
トイツ手等の可能性も見た方がいいと考えた。
スルーしたところ、ベストと言える東ツモ。
この局で終了させるに十分な、楽しみな手牌に育ってきた。

ソーズのホンイツ主眼の手組みにしたところ、上家から2sが出た。
さて、これを鳴く?

ラグありでスルーした。
コーツ手構成の手牌をチーから入るのはスジが悪い。
これは今後も扱うテーマだが、
トイツ手はポン、シュンツ手はチー、
トイツ場はポン、シュンツ場はチーから入るのが基本だ。
この牌姿の場合、3s9sはポンだが、2sはチーしないということになる。
点棒状況的にはスッタンまで意識してもいい場面だろう。
スルーした結果、赤5sツモ。

ズバッとカン4sをツモって、出来た!という感じのテンパイ。
手変わりもあるのでダマテンに構える。

対面が仕掛けていた南と中を連続加カン。
場に緊張が走る。

このタイミングで、リーチをかける?かけない?

ツモ切りでリーチに踏み切った。
ここでは1sが表示牌に死んだ上、18000になったため、ダマでも対面は飛ぶのでリーチをかける意味があまりない。
それ以上のデメリットとして、6sツモによる変化が効かないというのもある。
ここでのリーチはひとえに、仕掛けのカンを咎めるリーチだ。
対面は3着目であり、点棒状況的にはカンのメリットがあまりない。
放銃の最も嫌なはずの対面のカンは、少し勇み足にも映る。
蛮勇のカンであれば、ここが最善のリーチのタイミングだと判断した。

結局対面から出て、裏はまったく乗らずに、18000で終了となった。
対面がカンをしていなければ、飛ばずにギリギリ耐えられたはずで、
咎めることに成功したと言える。
C仕掛けるのは急所から

南3局、36400点持ちトップ目の親番。
2着目が29600点の南家、ラス目が16600点の北家となっている。
678の三色のイーシャンテンだが、カンチャンが2つ残っている。
上家から7sが出たが、さてどうしよう?

ラグありでスルーした。
この場面、ドラの7pなら仕掛けるが、7sはスルーすると決めていた。
場況からソーズの上は安く、7sはこの局面の急所ではなく、
何より7sチーしたところで、ドラ待ちではあがりにくい。
2900という打点もドラ待ちのあがりにくさに見合わない。

ほどなくしてドラツモのテンパイ。
仮に7sをチーしていると、下家にド急所のペン7pが流れて、テンパイを入れられるところだった。
(前巡の9m手出しは6mとのスライド)

ダマテンのままツモって、会心の3900オール。
前巡の5s切りもこの場況なら普通だろう。
このように、急所牌を的確に見極められれば、
スルーによって悪い結果を誘発する仕掛けを減らすことができる。
これはトップ目であろうとラス目であろうと変わらないわけだが、
点棒に余裕のあるトップ目だからこそ、目先のテンパイに捉われず、
大局を持ったスルー判断を心掛けたいものだ。