麻雀における押し引きというのは人によって十人十色、千差万別だろう。
相手の攻撃に対して自分の手が整っている場合、
河に情報の少ない序盤は基本押しで問題ないが、
煮詰まってくる中盤からは自分のあがり率と放銃率をどのように天秤にかけるか、
そしてスジの絞られる終盤はテンパイ料との兼ね合いをどうするか、という点で非常に悩ましいケースが多い。
何も考えずにリーチをかけてしまうのが最も楽だが、
リーチ者と直対にすることで、自分が致命的な失点をする可能性も高くなるため、
天鳳ではダマのままどこまで押すかのジレンマに陥ることも多い。
相手の攻撃に対してダマテンのままどのように捌くか、というのは、
天鳳のラス回避において最も実力が問われる部分であり、これが正確に判断できるかどうか、というのは安定段位を大きく左右する部分でもあるだろう。
仮にそれが放銃になったからといって、
誤った判断であるとは限らないわけで、
同じ局面での打牌がブレないようにまずは自分の打ち筋を確立する必要がある。
長期的な視野に立った打牌を、
客観的に分析する視点が必要で、
こういうのは人間よりもAIが得意とする分野だろう。
AI天鳳位が、我々に押し引きの技術を指南する。近い将来、そんなことが現実的になるかもしれない。
さて、今回は押し引きの難しい局面をピックアップした。
どちらかというと守備型の私だが、
どのくらい意見が一致するか、試していただきたい。
case1

東1局2本場、40300点持ち連荘中の親番。
西を暗カンした上家からリーチが入るも、
こちらも567の三色のテンパイとなった。
3m切りは必然として、さて、リーチする?
ダマにした。勝負手につきリーチという手もあるが、
暗カンリーチにつき放銃したらただでは済まない。
現物待ちならさらっと拾える可能性もある。
安目5800という打点も十分ながら、
本局は上家のリーチを潰すことができればこの半荘のトップはかなり盤石という感覚がある。
既に4枚見えの58sは好形とはいえ少し苦しいので、
他家のポロリを期待しながら、終盤ではオリる選択も視野に入れている。

次巡、6mをツモったが、
これぐらいはもちろん押す。

次巡、7pをツモったが、さてどうしよう?
押した。感覚的にはピンズの危険度が高まっており、新ドラまたぎのこの7pはかなり嫌だ。
高目ツモ6000オールなら十分に見合う勝負だが、
2900程度の手ならここでオリるかもしれない。

ワンチャンスの5mも押して、3pをツモってきたが、さてどうしよう?
ここで回った。無スジを自身で結構通しているので、ピンズの下かソーズの下ぐらいしか残っていない。
新ドラまたぎの3pは打ったら高いし、
巡目的にもこのへんがヤメ時かなという判断だ。

嬉しいテンパイ復帰で、よもやのあがりもある?
意地悪なツモだなあ。さすがにここで撤退。

結局上家の一人テンパイで流局。
3pはドンピシャ上家の当たり牌だった。
相手の当たり牌を掴む瞬間まで押し続けるのがベストなわけで、
このケースは理想的ともいえる。シックスセンスだろうがなんだろうが構わないわけだが、
気分で変える部分は最小限にしなくてはならない。
ちょっとドヤ顔をしすぎたせいか、この半荘は3着だった。
case2

南2局、27200点持ち2着目の親番。
22000点持ち3着目の下家からリーチが入り、一発目。
4巡目に切った1sにラグがかかっている。
さて、どうしよう?
これはさすがに切るしかないだろう。放銃覚悟だったが、無事通過。

裏スジの4pをツモったが、さてどうしよう?
押した。5pが少し遅めなので、14pには若干当たりにくいかなという感じもある。

次巡、8mをツモって、さてどうしよう?
1m切りで回った。ドラまたぎで最も切りたくないスジ。
これも実はブンと行こうと思ったのだが、
すんなりテンパイが入らないし、
14mが薄くなったことを理由に、一旦迂回した。

4sツモでテンパイが入ったが、さてどうしよう?
テンパイなら話は別だ。8m単騎ではあがれないので、現物待ちのピンフに受ける。
対面が9p合わせないかなあ、などと淡い期待を寄せる。

8mの方が合わせられ、ラス目の上家からもリーチが入った。
さて、どうしよう?

ここで比較的安全な6pを切り、36m受けに。
ドラはともかく3mは拾えそうな感じもある。

直後に下家がツモ。
もうそのへんしかないだろうという36sで一通の安目だったが、
裏ドラが南で3000・6000の親っかぶりとなった。
最初の牌図に戻って、
私の入り目が36mや58sだと手順で出ていく高目6sだけに、
これは巡り合わせで実は助かったケースなのだ。
ハネ満親っかぶりが助かったとは滑稽な話だが、
ツモの巡り合わせで致命的な放銃を免れているような時は実は好調時だったりするものだ。
例に漏れず、この半荘はトップで終了した。
case1が3着で、これがトップとは麻雀はわからないものである。
case3

東3局、30200点持ちトップ目の西家。
2件リーチを受けて、こちらもテンパイが入ったが、
さてどうしよう?
押した。リーチには打点がありそうだが、親の現物でワンチャンスの2mぐらいは押したい。

この2mに上家のポンが入り、持ってきた8m。
さて、どうしよう?
ヤメた。8mは親の現物だが、場況からピンズとソーズが分断形。
下家に対してこの8mはかなり危険度が高いのではないだろうか?

二人テンパイで流局となった。
下家はなるほどのカン6m。
マンズ待ちであれば8mを止めた甲斐がある。
発が後先で出てきたが、これはまあ仕方ない。
case4

南2局、30300点持ちトップ目の北家。
メンホンイーペーコーテンパイのところ、ラス目の対面からリーチが入ったところ。
一発目に1sを掴まされたが、さてどうしよう?
非常に嫌な状況だが、勝負した。この局面、一発放銃だとラス転落があまりに現実的になってしまうため、
天鳳的にはオリの方が賢明かもしれない。私もかなりの逡巡があったが、現物待ちということもあり、勝負に踏み切った。

この5pも嫌は嫌だが、一発目の1sに比べればたいしたことはない。
これも押す。

最終盤に2sをツモってきたが、さてどうしよう?
ここでヤメた。宣言牌裏スジかつ、ドラスジのドラじゃない方ということで、
放銃率的にも放銃点的にもひどいことにはならなそうだが、
通っていないスジがかなり限定されていることと、
親が南のトイツ落としで回っている雰囲気があることを考慮に入れた。
親がノーテンならこちらも無理にテンパイを取る必要はないし、
25sは親にとっても鳴き所に見えたので、絞りを兼ねて回った。

流局。親はまさかのテンパイ復帰を果たしていた。
対面に2sはズバリ当たりだったが、2sで打ってもリーチのみ。
親がテンパイなら、2sで放銃した方が結果的には良かった。
考えすぎて色々と上手くいかない典型で、
これだったら追っかけリーチの方がマシだよな、と思う。
いずれにせよ、ダマテンに構える場合は、どのくらい腹を括るのか、
そのさじ加減に技術介入要素が大きい分、失敗も多くなるということを弁えなければならない。追っかけリーチに覚悟が必要なら、ダマテンにも覚悟が必要なのだろう。
case5

開局の親番。
上家リーチの一発目、こちらもテンパイが入ったが、さてどうしよう?
8p切りダマとした。この手牌は、456の三色、ドラ引き、縦引きの白シャンポンと、
打点UPの変化が多いので、格上げを果たしてから勝負に行きたい。

4mをツモって、さてどうしよう?
白切りで回った。ピンズが概ね通った現在、47mのスジはかなり危険度が高く見える。
こちらの手は現状出あがりの効かないのみ手につき、
このぐらいの牌で回るのは妥当ではないだろうか。

なんやかんやでテンパイ復帰。
生牌の東を切ればテンパイだが、さてどうしよう?
2p切りで回った。ここでのポイントは対面の7m切りだ。このぐらい限定されたスジになってからの7mは強すぎないか?
ただでさえ上家の待ちがわからないのに、
対面にもマークを入れるとなると、この東は危険度が高すぎるように見える。

結局、二人テンパイで流局。
対面、形テンか!ワンチャンスでの7m切りだったが、さすがに形テンは読めなかった。
この親権を維持できなかったのは果たして緩手なのかどうか?
ドラや赤が1枚でもあれば攻め返す選択も十分に考えられたが、
赤入り麻雀では親番であっても後手愚形安手ではなかなか厳しいように思う。
そして、この後地獄の東単騎を一発で掴まされるジリ貧の展開となるわけだ。
これについては前回記事のcase1をご覧いただきたい。
なるほど、こんな所に東のアヤがあったのか。
case6

東4局、22000点持ち3着目の北家。
新ドラの8mがトイツで7mポンから仕掛けたところ、
暗カンのラス目上家が8s切りでリーチ。
さて、この宣言牌を仕掛ける?
鳴くなら何を切る?
正直これは難しかった。8sを鳴くかどうかの判断に加えて、自分の待ち取りをどうするか、相手の待ちは何かを考えなければならない。
7s切ってる上家の98s落としも謎で、これをすべて一瞬で判断しなくてはならない。
私が考えたのは、上家の7sが早いことから若干6sの方が危険ではないかということと、
8mが残り1枚であるということ、
それから親が5sを切っているということ、
これらの判断基準を用いて8sポンの4s切りとした。

しかし、持ってきたのはド裏目の8m。
さて、どうしよう?
8mツモ切りとした。打点的には4s切って6s単騎にするところで、
6sは山にいる感じもあるが、
親が2sを通したので中スジの5sは盲点になっている。
6sはかなり場に出にくいという感じがする。
8mは空切りも考えたが、
ここでのメリットがあまり思い浮かばなかった。

対面の仕掛けが入り、2mをツモってきたが、さてどうしよう?
ここでヤメた。マンズの下は場に若干安く、この2mは通りやすそうな錯覚があったが、
上家の捨て牌をよく見ると、かなりの危険スジとなっている。しかも本ドラだ。
マンズの下の仕掛けが入っているのに、
25mは実はワンチャンスにもなっていない。
仕掛けが入っていることで、リーチの危険度が死角に入ってしまう。大雑把にいえばそんな感じだが、何とも不思議な感覚だ。

結局親がツモあがって、1300オールとなった。
2mを押していれば、カン5sでも6s単騎でもあがれていた。
都合二度三度のあがり逃しということになる。
ただ、私の救いになったのは、上家の入り目が5mだったことだ。入り目を止めたからといって一銭の実入りにもならないが、
読みがある程度正確だったということを示す証でもあるからだ。

謎だった98s落としは、ここでのターツ選択が原因だった。
ここで7s切り、そこからスライドする形で98sが出てきたわけだ。
これを一瞬で読むのは至難だが、
こういうケースを経験として糧にすれば、
次回は6sの危険度をもう少しゆるく見積もることができる。