待ち頃のヤオチュー牌でシャンポンリーチを狙っていたら、リーチ前に片方が場枯れになる、ありがちな光景ではないだろうか。
シャンポンの片割れが場枯れだと、見た目にもアガリ枚数が少なく、即リーチに踏み切りにくいと考えるのが普通だ。
そこで、その後は枯れた方のトイツを落としていって、ターツを組み直していくという作業に精を出すことになるが、
元々シャンテン数を進める段階で愚形ターツを払ったり、強弱浮き牌を河に並べているはずなので、組み直す際にフリテンになったり、有効牌が少なくなっていたりなど、支障をきたしやすい。
弱い部分を払って、強い待ちを作るというのは麻雀の基本であり、通常はそのような手組みで問題ない。
だがちょっと待ってほしい、あなたのその手、本当に組み替える必要があるのだろうか?
まず、シャンポンというのは出アガリに適した待ちである。
両面が無スジをケアされると100%出てこないのに対し、シャンポンは後スジやノーチャンスによって出てくる可能性がある。
字牌ならシャンポンや単騎にしか当たらないので数牌よりも放銃確率は低い、と言う理由で切られる。
事実、字牌シャンポンのアガリ率は両面待ちに匹敵するレベルである、とどこぞの統計学の本で読んだ。
待ち枚数が物理的に少ないのにそこそこのアガリ率が期待できる、ということは言い換えれば同じ打点なら待ち牌1枚あたりの価値は両面よりシャンポンの方が高いとも言える。
ざっくり言うと、シャンポン1枚待ちは両面1.3枚分に相当する、と考えれば分かりやすいのではないだろうか(数値は適当です)。
このへんは研究が進めば正確に数値化されるものと思われる。
この「シャンポンは両面に比べて出アガリが期待しやすい」という特性を踏まえた上で、片割れのシャンポンリーチに踏み切るべき条件にはどのようなものがあるのだろうか?
@字牌・端牌が待ちで高打点
Aファン牌が待ち
Bツモり三暗刻などコーツ手
@残り2枚がアガリやすい待ちで高打点なら組み替えるより有利と判断して即リーチに踏み切る。
Aファン牌が待ちなら直ちにアガリが高打点に結びつきやすい。
Bツモり三暗刻なら打点が伴っているので待ちを組み替えるよりも期待値が高くなりやすい。
逆に組み替えてピンフなら組み替えた方がいい、ということ。
トイツ場なら即リーチ、シュンツ場なら組み替える、と言うこともできる。
それでは、実戦例から具体的に見ていこう。
case1

東3局、21000点持ちラス目の北家。
対面から2枚目の中が出たが、さてどうしよう?

スルーした(鳴き無し)。
ノーメンツ4トイツはスルー推奨。スルーがチートイツになることも結構ある。
そもそも前巡の2p切りがすでに縦シフトだ。
ここからポンのトイトイ狙いもなくはないが、遅い上に受けが効かず、リスクが大きい。
と、思ったら3pが暗刻になり、早くもてんこしゃんこに。

カン4sツモと、ツモは順調だが、やや捌きが難しくなっている。
ここでは9s切りとし、白ツモでの振り替えの目を残した。
ここからチートイツになる可能性も十分にある。

7mが暗刻になり、テンパイが入る。
さて、どうしよう?

即リーチとした。
片割れの中は場枯れだが、ツモで三暗刻につき枚数の少なさに見合う。
元々縦構想で手を進めていただけに、この最終形なら踏み切りやすいだろう。

結果は親から後スジになった8sが飛び出て裏は乗らずの1600。
枚数が少ない割に出アガリの打点が低すぎるのがこの手の難。
9sを先切りしているだけに、後スジの8sは盲点になるというシャンポンのメリットが如実に表れた恰好。
親は赤5sか8sいずれかを切ればテンパイ、この四面張で親の手なら、あなたはどうするだろうか?
終盤とはいえアガリ目も十分にある上、打点上昇が大きいので8s切りは間違っていないような気がする。
仮に、残り2巡なら丁寧に赤5sを切った方がいい、そんなバランスか。
case2

開局の北家。
オタ風の西2枚目が切られたが、これをラグありスルー。

巡目が早いので東のポンテンに備えてカン8pを払っていったところ、あっさりとテンパイ。
さて、どうしよう?

即リーチとした。
西が1枚でも残っていれば絶好のシャンポンだったが、高目しかないので悪くはない。
これが中盤ぐらいのリーチだと、止められるということも十分に考えられるが、序盤で安全牌が少ないことも加味すると、1枚抱えの人がポロッと出してもおかしくない。
ちょうど東は処理の頃合いにつき、一発も期待できる。

ほどなく、手の進んだ親から出てきた。5200。
親は安牌に窮してまっすぐ行った結果だった。
上家がホンイツ模様の仕掛けで、東は出にくくなっていたのでホッと一安心。
親が南あたりで回っていると、一転私がピンチになっていた。
このように、分散すると使いようがない字牌待ちなら十分に勝負になることがわかる。
case3

東4局、30200点持ちトップ目の北家。
まず、1枚目の発をスルー。このぐらいの形だとポンをする人も多いかもしれない。
最終形をドラ単騎に想定して7700という手もなくはないが、手牌が不安定になるので基本私はやらない。

イーシャンテンになったが、何を切るか?

8mを切って狭く構えた。
9m2枚切れだが、ここで白を鳴かれたら対抗できない。このへんがトップ目の選択肢の多さ。
発のポンテンでドラを切り出すつもり。
次巡テンパイが入ったが、さてどうするか?

とりあえず打診のダマとした。
ポンと言われるとさすがにこの待ちでは分が悪い。

そして次巡ツモ切りリーチ。
鳴かれなかったのでリーチ、というやつだが、レベルが高くなればなるほどこういうのは隙になるので微妙と言えば微妙。
3s手出ししなかったのは生牌をケアしたからだが、ツモ切りの隙を見せるぐらいなら3s手出しリーチの方が良かったように思う。
3sは下家の親に鳴かれる可能性は低いし。

対面に追っかけられて肝を冷やしたが、たまたま対面の現物に発があり、下家から出て裏1の8000。
下家にきっちりベタオリされると勝負はどう転ぶかわからなかった、このへんに特上卓の甘さが垣間見える。
打診の白からツモ切りリーチという一連の流れはイマイチにも映るが、8000の加点ともなればこれはでかい。
リーチの甲斐があったと言うこともできるが、守備力の高い相手なら私の放銃も十分にあったわけで、ここはダマから確実に2600をアガるのが本筋ではないだろうか。
case4

東2局、原点の西家。
北と発のシャンポンリーチを目論んでいたところ、テンパイが入る前に北が2枚切られてしまった。発も1枚切られている。
マンズが好形変化したが、さて何を切る?

7m切りとした。
効率的にはピンフ移行の発切り、もしくは発を生かした北切りが筋だが、マンズが高くてカン8mにまったく自信がなかったので。
カン8mに期待できないなら、発のポンテンの方が魅力的だと考えた。

テンパイしたが、待ちは発の残り1枚。
3pくっつきがなかなか良さそうに見える。さて、どうしよう?

即リーとした。
赤がなければやや行きづらいが、5200なら見合うという判断。
掴んだらなかなかに止まりにくいだろう。

上家から出て5200となった。
これも特上だから出ているが、鳳凰だと止められている可能性がある。
離れトイツ落としリーチに一件隣の2pはかなり安全、2pの暗刻落としで回ることもできた。
それでは、鳳凰卓ではどのような結果になるのか、以降で見ていきたいと思う。
case5

東4局、19600点持ちラス目の西家。
テンパイしたが、9mは2枚場に見えている。
さて、何を切ってリーチするか?

ツモり三暗刻なので当然こう受けるだろう。
8mも一見悪くはないが。

下家から追っかけが入る。
や、やめろ…

一発目、暗刻スジの2p掴んでげげんぴょとなるも、これがシャンポンにぶっすり。
北は持ち持ちでっか、というか2pも完全ラス牌なんですけど…

お、お〜い。リーチのみやないかい!
鳳凰卓に来た途端これ…厳しすぎるぜ…
これが響いてこの半荘ラスだった。

北家のこのテンパイ、あなたならどうするだろうか?
3mはかなり切りづらく、ドラケアも兼ねて北のトイツ落としも十分に考えられるところ、しかしそれだと私にハネ満放銃だ。
そして上家に固まっている14mのスジ。積極策が奏功、というのはまさにこのことではないだろうか。
case6

東2局、33900点持ちトップ目の西家。
赤1ドラ1のチャンス手のところ、1枚目の中が出た。
さて、これを鳴く?

スルーした(鳴き無し)。
雀頭のない手牌でネックのカン4pが残っているのでとりあえず1枚目はスルーした。
メンゼンで自然に急所が解消されるのを待つ。トップ目なので焦る必要はない。

すぐさま2枚目が切られたが、さてどうしよう?

スルーした(鳴き無し)。
ここから鳴く手はあるが、やはりネックのカン4pも雀頭不在も解消されていない。
スルーした結果、自風の西が重なる。これはこれで良いツモだが、少しタイミングが悪い。

と、思ったら間髪入れずに急所のカン4pを引き込む。
巡目に余裕があり、7mくっつきも十分に期待できるが、さてどうするか?

即リーチとした。
スルーした結果のテンパイ即リーチ、というやつだ。
鳴くかどうかの選択を2回経て、この最終形に辿り着いているわけだから、流れに沿ってリーチとした。
スルーして持ってきた西、これを生かすためにどうするかを考えれば、自ずと答えは出る。
中のトイツ落としで取らずとしても、西がイマイチ生きないからだ。

驚くほどあっさりツモって裏が1枚乗り、3000・6000。
大量リードを得て、この半荘をトップで終える。

2枚目の中ポンでもすんなりテンパイは入るが、アガリまではもたつく。
ポンでもスルーでも間違いではない。重要なのは、ポンした結果の因果関係がどうなるのか、スルーした結果の因果関係がどうなるのかを考えること、である。
ポンしていると、下家の大物手が成就する可能性が高い。そうなったらそうなったで、自身の対応を変えていけばいい。
スルーして持ってきた牌が好牌であれば、その流れに身を委ねるだけ、である。
case7

南2局、14200点持ちラス目の南家。
1s2枚目が無情にもツモ切られる。この巡目で形テンに取るにはまだ早すぎる。

テンパイが入ったが、どうするか?

即リーチとした。
全体の河が濃く、大物手が入っている可能性もあるが、リーチで対応させた方が得だと判断した。
下家の牌の被り具合などを見ても、トイツ場である可能性が高く、場況に合った手牌であると思われる。

結果は、最終盤に下家が親に12000の放銃。
私と親を同時にケアする牌が難しかったか。考えすぎて裏目ったパターンだと思われる。
下家の焦りの色が目に浮かんだが、最終的には私がラスだった。

リーチ時9pは2枚持たれていて、山にはなかった。当然こういうこともある。
リーチで対応させた結果、下家の対応を誤らせたのは一応の成果だったと言える。
case8

東2局1本場、17000点持ち3着目の南家。
トイツ手コーツ手天秤から、コーツ手テンパイ。
しかし、1p9pは場に3枚切られている。
ドラはまったく見えていないが、さてどうしよう?

リーチとした。
9pは機能的に他家は使いづらいため、掴んだら出る可能性がある。ダマで自由に打たせるのも癪だ。
ただし、追っかけられたら覚悟しなければならない。

ラス目からの追っかけが入る。
目指せ、流局(´・ω・`)

と思ったら、自分の当たり牌を掴む。2000・4000。
ラス1、取ったど〜。

リーチ後に持ってきた6pで、意外と9pは出るかもしれない。
このあたりが残り1枚とはいえシャンポンのメリットだ。
下家は国士みたいな河だが、きっちりと高打点の手が入っていた。
7pカン!なんて言ったら死んでたで、これ…
case9

東3局、14200点持ちラス目の親番。
1枚目の白をスルーし、北も立て続けに2枚目が切られたところ。
これを鳴いて、ホンイツに組み直すということもあるが、さてどうしよう?

スルーした(ラグあり)。
現状ラス目の焦りはあったが、ここからホンイツというのは手組みの失敗感を助長するだけだ。
ネックのドラ受けがある以上、オタ風仕掛けのバックでは自らの隙を認めることになる。

対面の仕掛けにより、ズバリのドラが流れてきて、さらにテンパイが入る。
北は場枯れで、白は残り1枚のみ。
ソーズの中ぶくれを生かしてピンフに組み直すという手もあるが、さてどうしよう?

即リーチとした。
スルーしてもツモが効かなかったが、対面の仕掛けによりツモが噛み合った。
この流れを重視する。仕掛けを咎めるリーチだ。

むむっ、一発目のツモがこれだとやっちまった感が。
組み直しが正解だったか?

正解はこっちでした。
一見紛らわしい、フェイクとか罠とかそういうものが麻雀には潜んでいるが、流れを見極められれば正解に辿り着く可能性は飛躍的に高まる。

ラス1の白をツモってそれが裏ドラに…
ピンフに行ってたら裏ドラ3枚河に並べるところだったぜ。
これは何かが来たと思える瞬間。
このトップの後、好調の波、裏ドラの波が押し寄せ、九段昇段を引き寄せることとなる。
鳳凰卓では守備力が高く、リーチに対してなかなか当たり牌を打ってもらえないため、待ちの枚数が少ないリーチは基本不利だ。
ただ、片割れがないシャンポンであっても、使い方によってはリーチが上記のように効果的となるということも理解いただけただろう。
最高峰の戦いでは待ちの枚数云々で勝敗は決しないことが多い。
重要なのは、自分が今どのような流れの中にいるのかをシグナルから敏感に感じ取ることだ。
自身のスルー、相手の仕掛け、その選択一つで変化する流れに決して逆らわず、身を委ねるということ。
決して表には現れない形のミスを発見していくこと。麻雀はデジタルなゲームなどでは決してない。
大海に掉さして、漕ぎ出でる船がグングンと進んでいく、そんな感じで勝利をイメージしていただきたい。