
唐突に質問をぶつけてみたいが、あなたは第一打に赤5を切ったことがあるだろうか?
または直近の実戦で第一打赤5を切ってきた他家はいただろうか?
私の経験で言うと、鳳凰卓8000戦、直近リアル500戦含めて考えても、第一打で赤5を切ったという記憶がない。
あったとしても1回〜2回とかそのレベルではないだろうか。
言い換えると、それだけ第一打赤切りというのは出現頻度が低い現象であるということだ。
これには明確な理由がある。
まず、目立ってしまうからだ。
超絶好手のイーシャンテンだとして、第一打に切ってしまうと要らぬ警戒を相手に与えてしまう恐れがある。
そもそも通常メンツ手のイーシャンテンなら赤を生かした組み替えを考慮するため、第一打赤切りという選択にならないことが大半だ。
1巡目であれば他家に対する防御など考える段階にはないため、攻守の面から第一打赤切りに踏み切る理由に乏しい。
そこで考えられるのは、1巡目にテンパイしているケース。
しかしこの場合も赤を切る価値があると判断しているのであれば牌は横に曲がっているはずである。
オーラスなどの特殊な状況は別として、赤を切らずにダマに構えるのであれば赤を生かした組み替えを考えても不思議ではない。
何せまだ1巡目なのだから。
これらを踏まえて、第一打に赤を切る必然性のある手役は何があるだろうか?
最も考えられるのは、ホンイツ・チャンタ・国士などの全体手役、かつそこそこテンパイが近い牌姿である。
@ホンイツ系















この手なら迷わず赤5pから切り出せるのではないだろうか。
染め系は仕掛けが効いて速度が見込める上、異色の赤やドラは利用価値が打点的にもないため、見切りやすい。















一部牌姿を変えて、これだとどうか?
これだとメンツ手になった際に、赤5pの1ハンが打点上昇に大きく貢献するため、温存されやすくなる。
78sの両面ターツから落としてホンイツとの両天秤に構えるのが玄人的か。
このように、全体手役にしても1巡目からかなりはっきりと見えていないと第一打赤5切りは選択されにくい。
Aチャンタ系















チャンタ系も序盤で赤が切られやすい手役。
これぐらい形がはっきりしていると第一打から赤が選ばれやすいだろう。
赤を切ったわりには仕掛けると安くなりやすいのがホンイツとの違い。
B国士















国士かチャンタにしかなりようがない手。この手なら第一打赤切りは普通だろう。
国士一点に絞るならどうか?
私なら2mあたりから切り出して、できるだけ河の気配を消そうとするかもしれない。
雀風によって分かれそうだが、目立つことを嫌って第一打に赤5pを切らない人の方が多いのではないだろうか?
一般的に第一打赤切りが少ない所以がこういう点にあるのだろう。
しかし、最新の私の研究によると、強者ほどこういうところで赤を真っ先に切る傾向があることがわかった。
確かに、赤を引っ張れば引っ張るほど他家に鳴かれるリスクも高まり、仮にチーされた瞬間、国士をやっているこちらは圧倒的にやりづらくなってしまう。
赤を引っ張って国士の迷彩を打つことは、自身のアガリ率とはそれほど相関がないが、赤を引っ張って下家に鳴かれることは、いたずらに下家の打点を上昇させている点で、自身にとって不利な要素が増えており、これは明らかに損だ。
5という牌の有効度が高いだけに、いらないのであれば処理速度は早ければ早い方がいい。
じゃあ2巡目じゃダメなの?ということで、私はそれぐらい遊びの余地を残してもいいと考える派だが、1巡で状況が変化する麻雀の性質上、他家に利する牌は一刻も早く処理するのが最善だろう。
実戦例から、雰囲気を肌で感じ取っていただきたいと思う。
case1

東3局、23500点持ち微差ラス目の西家。
対面の親が、いきなり打赤5sときた。
トップ目の親が第一打に赤5s切り、しかも対面は言わずと知れたzeRoさんである。
かなりの緊張感が卓上に走ったことを覚えている。

そしてこの第二打である。
両面ターツ落とし…だと?
前代未聞の初巡赤含み両面ターツ落としに怯み、たじろぎ、おののく私。
対面は一体どんな手なのだろうか?
ここで一つだけわかることがある。
対面は通常のメンツ手とチートイツだけはありえない、ということである。
チートイツならわざわざ赤から切らないはずだ。

さらにマンズの手出し2種。
これによりややムードは弛緩する。
形の整った全体手役であれば、6mと3mという繋がりのない牌が赤ターツより後に出てくるのはおかしい。
現時点で警戒するならばピンズよりもマンズの方が危険、ということになる。
しかし、仮にマンズの染めだったとしたら下家の8mにラグがあったり、何らかの兆候が生まれてしかるべきである。
そもそも、赤ターツ落としの後に中張牌の手出しが3回ある時点で、かなり整ったメンツ手という可能性は減衰している。
?マークは継続だが、対面の手役はかなり絞れてきた。

ピンズが手出しで出てきた。
これによりホンイツがあるならピンズ。
36mが浮き牌であった可能性が高く、マンズの安全度が一気に高くなった。

と思いきや、このポンである。
手出しは9m。
情報を整理していないと何が何だかわからない。
よく見ると4枚目の白が出た直後。対面は方針転換をしたと考えられる。
この時点で対面への脅威はかなり薄まったと考えていいだろう。

結果、下家の一人テンパイで流局となった。
こちらもテンパイが入らなかったが、親が流れてホッ。

対面の赤切りは、配牌10種からのものだった。
蓋を開けてみれば何のことはないが、1巡目から赤両面ターツ落としは準備していないとなかなかできるものではない。

2巡目。
1巡前と上家の手を見比べてほしい。
上家には赤5pがインして赤赤。少し手が進むと赤5sは喜んでチーされる牌となっている。
下手するとここで赤切りでもチーされた可能性すらあった。
3900が7700になる得点効果は大きい。
ましてや対面は国士なのである、下家に仕掛けられるリスクも踏まえてかなりやりづらい展開となるのは想像に難くない。
そして一つ言えることは、この切り出しにおけるこちら側のプレッシャーも半端ではなかった。
zeRoさんが強者であることをわかっているからなおさら身構えてしまうのである。
国士の場合は手が遅いだけに、序盤からプレッシャーを与えるのはわりと効果的かもしれない。怯えている隙に、というやつである。
第一打赤切りには、瞬間的にチートイツがなくなるとか、通常メンツ手の可能性が低くなるといった手役が限定されやすくなるデメリットも確かにある。
しかし、赤の先処理とプレッシャーを与える効果がそれを補ってあまりあることに気づかされる。
国士に限って言えば赤を仕掛けられるデメリットがあまりにも大きいため、赤やドラは引っ張るよりも先に処理することを心がけるべきだろう。

8mポンはここから。
国士が消えた瞬間にテンパイ狙いにシフトする変わり身の早さ。
この柔軟性・テンパイを諦めないしぶとさが強者の特性と言える。
case2

開局の親番。
第一打を切った直後に、違和感のある牌が下家から切られた。赤だ。
戦慄が走るのも無理はない、だって東1局の第一打なのだから。

マンズ手出しの後に3s手出し。
これは裏目のカモフラージュ、つまりカンチャンターツ落としだった可能性が高い。
さては下家さん、やっちゃいましたね?

先ほどのケースと被るが、このへんの手出しにより色寄せなら赤切りが早すぎる違和感が出る。
ホンイツにしても赤との天秤をもう少し引っ張るのが普通だからだ。

下家からバタバタと出始める字牌。
河の傾向がもろcase1と被っている。
そろそろ下家へのマークを外してもいいか。

下家の2つ目のポンは意外にもマンズ。
手役はチャンタ系が濃厚か?

上家の宣言牌8mをスルーして、ドラを引き入れることに成功。
これはもろたの現物待ち、9s勝負してダマに。

も、下家に400・700でかわされてしまった。
二者のチャンス手を潰す値千金のアガリ。
むうう、ちゃんと役があったか。

下家の第一打赤切りはここから。
これはかなり特殊な一打と言えるのではなかろうか?
8種バラバラから国士とマンズホンイツとチャンタの天秤と言ったところだが、アガリ目が薄いので受け重視というのが本音だろう。
それにしてもターツ落としなのである。

2m切りの時点でこう。
実戦での印象と当たらずも遠からず。むしろ実際の方がバラバラに見える。

あそこから積極的に仕掛けてアガリまで結びつけているのだからお見事としか言いようがない。
要は受けを重視しながら、仕掛けてアガりやすい手組みを1巡目から意識していたということなのだ。
ちなみにこの下家、麻将連合所属の武則輝海プロである。
天鳳で技術を磨き、将王2度目のタイトルも獲得、現在乗りに乗っているプロの一人だ。
トッププロと対決させてもらっているのはとてもありがたいことだと私自身感じている。
天鳳で培った技術というのはプロの間でも通用するものであることは武則プロの活躍が物語っているだろう。
こうしてみると、強者は柔軟な発想で麻雀に接していることがわかる。
使いづらい赤は先に処理することで、他家に仕掛けさせないという点を重視しており、実利的にもそれは大きいだろう。
赤は引っ張るという固定観念を排して、自分の手を殺さないように工夫して切っていくことも麻雀の技術においては大きく、セオリーは進化しているということを実感した。
体系化して、迷わずに第一打赤切りができるようになれば、あなたの麻雀の幅は確かに広がっているだろう。