こういう状況はわりと多いのではないだろうか。
特に今の時代は、スピードが求められるだけに、受け入れの狭い手役狙いを悠長にしていると、アガリがなかなか得られないということにもなりかねない。
手役狙いの際に重要なことは、その実現可能性はどのくらいあるか、そして仕掛け含めた期待値がどのくらいあるか、ということを感覚的に掴むことで、その手役を見切ることで得られるスピードやアガリ率の向上、守備力や将来変化などを総合的に秤にかける必要がある。
これについては、ある程度経験を積んでいても選択に迷うケースも多い。
Mリーグを見ている方はおわかりだろうが、赤あり麻雀であってもただスピード重視の手組みにすればいいというわけではなく、勝ち切るためにはどこかでしっかりと打点を得ることが重要となってくる。
そういう意味では、平成後期の鳴き麻雀ブームの頃よりは今の方が打点の価値は高まっており、手役を大事にするべき局面は増えたと言えるかもしれない。
このあたりは、時代時代のブームによっても変わってくるものであろう。
天鳳の場合は、守備力を重視するあまりに手役をおろそかにしてしまいがちだが、私も例に漏れず慎重に打ち過ぎてアガリを逃したり、打点をいたずらに下げてしまうこともままあった。
赤入りかつ守備力が求められる天鳳などの土壌では、特にこのへんのバランスにセンスが求められると言えるだろう。
それでは、実戦例から見ていこう。
case1

東1局1本場、前局2900をアガって連荘中の親番。
二者が2フーロしていてこちらもドラドラのチャンス手となっている。
123の三色イーシャンテンだが、さてここから何を切る?

2p切りとした。
確かにドラトイツ固定はしているものの、三色を放棄し、現状3トイツで受け入れがやや少ない選択だ。
ここで私が考えたのは、仕掛けによる三色の打点と、マンズの横伸びの変化だ。
ペンチャン2種が残る三色狙いは、受け入れ的にアガリの見込みはそれほどでもなく、メリットとして大きいのは仕掛けられる点。
ただ、仕掛けてしまうと2000点に過ぎず打点的な魅力がない上、ドラを切り出さなければならない。
場況を見るとマンズの中ほどはかなり優秀で、5m周りのくっつきは一通変化も含めて魅力的に映る。
マンズが伸びた場合は一通で仕掛けることができ、ドラポン含めて機動力が増す。
この点からドラ固定することは攻守の面からメリットがありそうと判断した。
マンズとソーズをこの形にしておくことは、マンズが変化した際にその恩恵を最大限享受できるというわけだ。

裏目となった3pを対面にポンされるも、急所の3sを引き込みテンパイ。
下家にドラを切られた直後ということもあって、1巡だけダマでマンズの変化を待つ。
次巡、対面に5mが切れないことを踏まえて、シャンポンのままリーチに踏み切った。

僥倖にもツモれて、裏はなしの4000オール。
三色にこだわった場合、3pツモでペン3sテンパイを入れられるが、対面が3sを暗刻で吸収するため、アガリは厳しい状況となる。
5mが最終的に対面に当たりのため、変化待ちは微妙となったが、結果的にはこちらのアガリが早かった。
ペンチャン2種に優位性は低いとみて、柔軟に手役を見切った例。
結果はたまたまだが、こういう場面に選択の余地があることがわかるだろう。
case2

東2局、23700点持ち3着目の親番。
好牌姿からメンツが一つ完成したところ。
456の三色も見えるが、ここから何を切る?

ドラ受けを重視して、6m切りとした。
ズバリ5sが入ったら三色確定のテンパイに受けられるのは魅力だが、5sツモなら三面張リーチで問題なさそう。
2sツモならなおさら。
456三色のハードルがやや高く、8sが場況的に魅力的なので、ここは三色にこだわる必要がないと判断した。
これはわりとパッと見で判断できるが、似たような牌姿で難しい選択となる局面も山ほどあるだろう。

テンパイが入らないまま、対面が7700のアガリとなった。
仮にソーズの両面ターツが三色部分を構成する場合は、4s切りの両面ターツ固定でお茶を濁すという選択もあるだろう。
case3

オーラス、23300点持ち3着目の親番。
点棒状況は私から順に、23300、29800、37100、9800となっている。
絶好の3p引きで345三色のイーシャンテンとなった。
さて、ここから何を切る?

3s切りとした。
これは6s切りが普通かとは思うが、6s切りだとソーズがあまりにも不自由な形になってしまう。
マンズが不安定なため、3mや5mの縦引きの際に、3s切りならかなり有利な変化を見込める。
34pにより三色が不確定なことと、ズバリ4mが埋まっても自身にとってそこまでのデメリットではない、というのが大きいだろう。
仕掛けによる打点の減少は少々痛いが。

嬉しい2mが埋まって、結果打点に差のないテンパイ。
ダマなら2pが拾えることと、リーチで上家から出ると飛んでしまって2着終了のため、ここではダマとした。
リーチツモなら問答無用でトップにつき、リアルなら鉄リーチ。
天鳳でもリーチで良さそうだが、脇を止めてしまうと上家との点差的に油断できない。

意に反して25pは一向に場に現れず、そうこうしているうちにラス目からリーチが入った。
河からも逆転手の匂いがプンプンしている。
一発目に持ってきたのは、無スジの1s。さて、どうするか?

腹を括って押したところ、予想外のところからロンの声が。
トップ目対面に1000点で救われた格好となった。
上家のリーチは直観的にツモで捲られると思ったので、ここは勝負すべきだと判断した。
案の定、高目三色のツモでハネ満あった。
ちなみに1sはワンチャンスでなければ押さない。
ダマに構えているから全部オリというわけではなく、戦うことでこのように救われることもあるというわけだ。
場を見てもらえばわかるように、7sはまだ2枚山にいて、変化期待は有効だったことがわかる。
case4

東4局1本場、22100点持ちラス目の南家。
8sをツモって3s待ちのテンパイが入ったところ。
1sはドラだが、3sは場に2枚切れている。
さて、どうしよう?

ドラを切ってダマとした。
ダマなら4s切りで良さそうに見えるが、3s待ちに永久固定してしまうのは窮屈で苦しい。
こういう横伸びのカンチャン形は、内に寄せることで変化を見込むことができる。
この場合は258sツモでピンフへと変化する。

結果は1mで下家に2600の放銃となった。
この1mはさすがに止まらない。

この局面で、なんとなく258sが強そうというイメージを持てれば、自然とドラに手がかかるだろう。
特に25sツモの変化なら三面張以上の最終形でリーチと行けるため、アガりにくいドラの1ハンより価値のある変化となる。
4s切るなら思いきってリーチが良く、それはそれで下家のオリを誘発できたりして悪くなさそうだ。
手役狙いには打点が上昇するというメリットがある一方、手牌を固定化させてしまうことで柔軟性に欠けるというデメリットがある。
手役を十分に尊重しつつ、牌姿や状況によっては手役を見切って手牌の流動性を高めることで、アガリへの道筋を開拓できるかもしれない。
自身の中で手役についてどの程度の比重を置くか、あらかじめ考えておくことで、バランスのいい打牌選択ができるだろう。