一見何気なく見えるが、牌の晒し方というのは非常に奥が深くて、複合形でどのように晒すかというのははっきりと腕の差が出る。
晒す際に最も重視することは何かというと、自身の守備力が上がるように晒す、ということである。
仕掛けて自身の手牌が短くなっている以上、相手に対する受けを重視するのは当然とも言える。
そういう観点でいくと、赤やドラ、二筋にまたがる456牌など他家に対する危険牌は積極的に晒すのが間違いが少ない。
なぜなら、晒した牌は絶対に切ることができないからだ。
また、それらを晒すことで、再び危険牌を持ってきた際にスライドしやすい、というメリットも生まれる。
単純に危険牌を晒すと言えば容易く聞こえるが、生牌と内側の牌のどちらの危険度を優先するか、スライドする牌はどちら側の危険度が高いか、など状況ごとに危険度に差が生まれる上に、将来のスライドまで考慮すると晒し方に迷いが生じることも少なくない。
実戦で逡巡してしまうと、複合形からの仕掛けであることがバレてしまうなど、多大な情報源を相手に与えてしまう。
些末な差に捉われて、大局を見失うことがないように、基本的にはシンプルに今現状の危険牌を晒すことを心がけておくのがいいだろう。
晒しスキルに総合力が問われる理由がもうひとつある。















上記の手牌で、上家から4pが出た。どう鳴くか?
この晒し方にはなんと4パターンもある。
チー








カンチャンと両面の形で2通り、赤か赤じゃないかで2通りの合計4通り。
危険牌を晒すという基本に従うと、ドラのスライドも考えて、


仮にこれがネット麻雀なら、晒すパターンが選択肢で示されていたりしてワンクリックでチーすることも可能だろう。
しかし、これがリアル麻雀だったら?
上記の理牌のまま3pと赤5pをつまんでしまうと、二枚の間隔が空いてしまい、複合形の仕掛けがモロにバレてしまう。
待ちはともかくピンズの周辺を持っているという本来与えなくていい情報を与えてしまうことになる。
それが嫌(めんどくさい)なので、56pの晒しやすい方で晒すと。
そうしたら、ドラを持ってきてしまってスライドできずに、親のチートイドラドラに放銃してしまった。
こういう事例は、思いの外多いのではないだろうか。
リアルの場合は何を鳴くか・どう晒すかの前準備の他に、どういう理牌にするかという牌の並べ方まで前もって考えておく必要がある。
これが、リアル麻雀において鳴きの敷居が高くなる理由でもあるだろう。
不自然さを隠す理牌は難易度が高く、カチャカチャと理牌をしすぎても鳴きたいことがバレるなど一つの情報にもなるため、個人的には飛ばし鳴きはある程度割り切ってやるのがいいような気がする。
多少の牌の並びがバレても待ちが何かまではわからないことがほとんどだからだ。
過去に映像対局で、女流の冨本智美プロが理牌にこだわってとんでもない鳴き間違いをしたことは記憶に新しい。
理牌にこだわらないプロとしては藤崎智プロがいるが、ご存じのとおりタイトル歴多数で実績に関係ないことがわかる。
理牌を極めたいなら、鈴木たろうプロが参考になるだろう。
天鳳のwindows版は鳴く箇所を自身でクリックして指定するのだが、なぜか私はこれが苦手で、カンチャンが上手くチーできないなどの病気を時折発症してしまう。
天鳳無料版は、確か赤入りのチーがデフォルトになっていたはずで、これはこれでわかりやすくて良かった。
それでは、実戦例から見ていこう。
case1

南3局1本場供託2本。8500点持ちラス目の南家。
3着目の下家とは8000点弱の差。
2着目の対面からリーチが入って、供託リーチ棒3本目が出た。
ラス回避のためにはここが正念場だ。

上家から3pが出て、これをチーテンに取った。
さて、どう晒す?

なんとなくカンチャンで晒したくなるが、赤5p込みで晒す。
次に5pを持ってきた際にスライドが効くからだ。
3pがノーチャンスにつき2pの安全度も高く、リーチに対しては6pよりも5pの方が危険に見える。
9pが通っていなければスライドの判断は微妙なものとなるが、赤を晒しておけば間違っても赤が出ていくことはない。

実際はこう。
対面のリーチに5pが当たるだけではなく、下家のトイトイにも5pが捕まる。
5pがスライドできるか否かでこの手の耐久性が大きく変わってくることがわかるだろう。

首尾よく引きアガって、1000・2000。
勝負所を制して、本局のみで3着捲りに成功。そのまま3着で終了した。
case2

東4局4本場、40500点持ちトップ目の南家。
上家から4pが出たところ。
これを鳴く?鳴くならどう鳴く?

カンチャンの赤で晒した。
対面の河に2pがあるように、全体的には2pの方が安全なので、5pツモ時のスライドに備えられる。
234でチーするメリットは6pツモ時に3pとスライドできることにあるが、現時点では3p自体の危険度も高いため、そのメリットがさほど感じられない。
トップ目なのにわざわざ警戒させる赤の方を晒す必要はない、と考える人もいるかもしれない。
しかし、トップ目だからこそ、受けに強い形で凌ぎやすい手順を模索すべきなのだ。
場合によっては傍観して、局が進むのを待つ。この選択肢が採れることこそトップ目の特権なのだから。

テンパイまで漕ぎつけたが、ダマで下家がアガって5200。
局が進んでくれればこれはこれで良し。
ちなみに、下家は現在Mリーグで活躍中の瑞原明奈プロ(九段当時)である。
何気なく闘っている相手が未来のMリーガー、なんてことが起こりうるのがネットの世界である。
case3

南1局、28300点持ち2着目の北家。
ラス目の対面からリーチが入っている。
こちらは自風を仕掛けてホンイツイーシャンテン。
上家から6pが出たので鳴こうと思うが、さてどう晒す?

赤含みで晒した。
ホンイツが匂う河につき、打点でできるだけ目立ちたくないのが本音だが、7m押しですでにがっつり目立っている。
リーチも入っているので、もはやあまり関係がない。

ドラまたぎとなる2mを持ってきたところ。
これはリーチには通っていないが、さてどうしよう?

ここで回った。
ラス目のリーチだけに、慎重に対処しなければならない。
ノーチャンスの8pも安全度としてはかなり高いが、ここは2m周辺のくっつきに備えた。
マンズの下が通っていないので、雀頭を残した方が凌ぎやすいと考えた。

望外の2m重なりでテンパイ復帰。5pは安全度が高く、切りやすい。
と、ちょっと待ってほしい。
あそこで赤5pを晒していなかったら今どうなっていただろうか?
浮いているのは赤5pであり、ほぼ当たらないとは言っても当たった時がひどい。
赤を晒さずに赤ターツを切り出す抵抗感から8pの方を落としたかもしれない。
相手の攻撃が入っているケースでは危険牌を掴んで回る過程で、このようなターツ落としに発展することも少なくない。
赤が手牌にあると切り出しづらく、回し打ちにおいて柔軟性に欠ける手牌になってしまう。
つまり、特に後手の際は無条件に赤を晒した方が自身にとって得となるケースが増えると考えられるのだ。

結果、下家から8pが出て2000。
ラス目のリーチをかわす値千金のアガリになった。
対面の待ちはニアピンの36mで勝負手だった。
意外にも47pでのアガリ目はかなり薄かったことから、柔軟な回し打ちが奏功したと言えよう。
このように、赤を晒すことによって、打点を見せてアガりにくくなるデメリットよりも、回し打ちにおいて柔軟性を保てるメリットの方が大きい。
基本的には赤は晒すものとして考えておけば間違いないだろう。